AlphaFoldは創薬の役に立つのか?~マルチモダリティ創薬への挑戦
大上 雅史 (東京科学大学)
2024年のノーベル化学賞でも話題となったAlphaFold。タンパク質の立体構造を手軽に予測できるようになり、予測された構造に対してリガンドドッキングなどの手法を適用することが可能となった。また、AlphaFold3では低分子や核酸などとのヘテロ複合体構造 (co-folding) も予測できるため、AlphaFoldは創薬に役立つツールとして注目されている。しかし、AlphaFoldの構造をそのまま信頼して分子設計に利用してよいのだろうか?果たして、AlphaFoldは本当に創薬の役に立つのだろうか?
この問題に答えるのは容易ではないが、我々はAlphaFoldを活用した分子設計に有用なノウハウを研究してきた。例えば、未知のタンパク質間相互作用を予測する技術「SpatialPPI」、AlphaFoldのoutputを制御するためのパラメータ探索技術やinputの工夫、リガンドドッキングとco-foldingを組合せた高速なアフィニティ推定技術「Boltzina」など、AlphaFoldを一つのツールとして分子デザインフローに組み込むための方法を報告している。リガンドデザインのための初期構造としての信頼性も平均的なPDB構造に比肩しそうである。また、特定の抗原に対するモノクローナル抗体のde novoデザインにも、AlphaFoldや周辺のAI技術が活用できそうである。さまざまなモダリティに対して、計算の手が届くようになりつつあり、複数のモダリティを並行して考えていくマルチモダリティ創薬が進みつつある。
日々、論文やpreprintで新たな計算技術が次々と報告される時代となったが、その中で創薬に真に有用な技術を見極め、あるいは自ら開発し活用していくことが重要である。AlphaFoldはその一つのきっかけに過ぎない。今後は、AI・計算科学・実験科学が密接に連携し、新たな研究基盤を築いていくことが求められていくだろう